「大野勢太郎、ラジオの現場を語る!」ACC著作権委員会において、大野勢太郎氏(ラジオパーソナリティー/元文化放送アナウンサー)をお招きし、「大野勢太郎、ラジオの現場を語る!」と題するセミナーを2007年3月2日に開催しました。その講演の概要は以下の通りです。 |
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その後、数カ月して番組に次のような投稿が寄せられた。「ある出版社から『この度浦和レッズに関する本が発行されます』というダイレクトメールが送られてきたのですが、なぜ私の住所を知っていたのでしょうか?」というものだった。私はとっさに「あの編集者がやったのではないか!?」と思い、ADに問いただし、彼が貸してしまったことをそのとき初めて知った。そこで、投稿を募った責任から、そのまま放置しておけないので、番組内でリスナーに「この浦和レッズの本の出版に当たり、もしご迷惑をおかけした方がおられれば、その旨お知らせください」と訴えた。そうしたら、山のような抗議が寄せられてきたのである。即刻その編集者を問い詰めたところ、「今まで散々失敗しているので、この本が売れなければ、私は編集者としての立場を失ってしまうのです。そのため、本の案内をダイレクトメールで送ってしまいました。」という切羽詰った回答が戻ってきた。失敗が許されない編集者による確信犯的行為だったのだ。投稿文を本に掲載することを、ましてやその投稿者たちに出版案内を送るなどということを許諾した訳ではない。それが現在であれば、番組そのものが中止になり、放送局側が番組スポンサーに巨額の損害賠償を支払うことになっていたかもしれない。今、思い起こしてもゾッとする話である。
ラジオの世界では、かつて契約関係が非常に曖昧であった。書面による契約は存在せず、口頭契約で行った。例えば、出演者に番組の降板を伝えるのは、やめてもらう2〜3カ月前といった慣習に基づいた。つまり、次を探すために必要な期間としてそのくらい前に通告すればよい…という考え方でやっていたのであった。しかし、ある放送局がとある外人DJに「2〜3カ月後に番組を降板してもらうよ」と告げたところ、翌週に辞めてしまったことがあったそうだ。そのため番組に穴があきそうになってしまった。この事があって以来、その局では、書面による契約を行うようになった、という経緯がある。しかしながら、すべてにおいてまだまだ徹底されてはいない。実例として、私はラジオCMにも何本か出演している。ある会社からCMナレーションの出演依頼があり、期間は3カ月間ということで承諾したつもりであった。ちなみにそれは一昨年のことであったが、何と今でもそのCMはオンエアされている。その間に同業他社から出演依頼があって、困惑したこともある。(※注:電波料は支払われているためそのCMは放送されているが、制作に関与したナレーターとの出演契約の条件がまったくあやふやであった。)

また、やや深刻な問題として、プライバシー侵害の問題もある。投稿者の中には他人に成り代わって(他人名義で)投稿してくる者もいる。以前にもその「成りすまし」投稿によって、ある女性が特定されてしまい、彼女から「職場での名誉を傷つけられた」と怒りのメールが送られてきたことがある。それ以降、局内では個人が特定できる、「会社名」「住所」「職業」等が使用されている場合はもちろん、ダミーの名称が用いられていたとしても、聞く人が聞いたらわかってしまうような内容のものは放送しないようにしている。
権利・義務、あるいは契約といった観点からは、曖昧な部分もありのんびりしたところがラジオの世界の特徴である。しかし、それは私にとって、ある意味で故郷のように居心地の良い世界である。ラジオの世界に集う者が、同じ電波媒体ということでテレビ局と比較するなど無意味だし、ましてやテレビ局に働く人との給与格差をうらやんでも仕方がない。また昨今、インターネットの広告金額の総額が急激に増加し、ラジオを上回ったそうである。ラジオ関係者の中にはそのことだけで危機感いっぱいになってしまっている者もいる。しかしながらラジオとインターネットでは、おのずとその役割は違うので、比較すること自体無意味だと思っている。ラジオは、今なお家族みんなで同時に楽しめる媒体である。私は、毎日「誕生日おめでとう!」のメッセージを放送する企画を実施している。家族の誰かの誕生日に、日頃の感謝をこめて応募してもらう。家族が依頼した「おめでとう、いつもありがとう」のメッセージが読まれるかどうかを家族みんなで楽しみにして聞いてもらえる。もちろん、時間の関係で応募のあったすべての名前を呼ぶことはできないが、読まれた喜び、あるいは今度は読んでもらおうという願望、そのようなリスナー一人ひとりの思いをしっかり意識して放送している。ラジオ媒体ならではの特質をここにいる皆様に理解していただき、ラジオへの広告出稿についても積極的に考えていただければ幸いである。